シーツの皺
目が覚めたとき、窓のカーテンが、ゆっくり息をしていた。
朝の光は白くて薄い。十月の終わりかけの空気が、すきまから入ってくる。肩のあたりだけ、ひんやりしていた。恋人でもない男の腕が、わたしの腰にまだ乗っている。重さが、体温のぶんだけ、なんとなく正直なんだよね、たぶん。
昨夜のことは、順番に思い出せる。ほどいた襟、床に落ちた黒いワンピース、あとから脱げたカーディガン。氷が溶けるみたいに、ことばが先に溶けて、そのあとは、波が来て、引いて、また来た。街灯の色が壁を撫でて、二つの影がひとつになって揺れていた。遠くの電車の音が、ある瞬間だけ、ふっと消えた。
今は、散らかった部屋がある。靴下が片方、枕のそば。グラスの底に、輪のかたちの水の跡。背中に、シーツの皺がそのまま写っている気がして、指でなぞってみる。布って、いろんなことを覚えているんだよね。古着もそう。誰かの二十年ぶんの夜が、まだ残っている。このシーツも、きょうのぶんを、洗っても少し持っていくのかな。
男は寝返りをうって、うす目をあけた。ほくろのあたりを、親指でそっと押した。なにも言わない。わたしも言わない。名前を呼ぶほどの関係ではなくて、呼ばないほどの他人でもない。そのあいだに、朝がいちばん静かに座っていた。
コーヒーを淹れようと思って、立ち上がる。床がつめたい。ワンピースを拾い上げたら、襟のところに、まだ体温が残っていた。
コメント
よざくら
泣くほどじゃないけど、たしかに、襟はいちばん正直なんだよね、たぶん。
泣くほどじゃないけど、たしかに、襟はいちばん正直なんだよね、たぶん。
マサ
電車の音が消える一瞬、映画ならきっと音を抜く場面ですね。あの静けさは、そういうことでしたか。
電車の音が消える一瞬、映画ならきっと音を抜く場面ですね。あの静けさは、そういうことでしたか。
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床に落ちた服の順番まで覚えてるの、ちょっとわかる。襟のとこに残る体温って、なんか泣きそうになるよね。