値札
日曜は店が休みで、きょうは起きたら午後だった。くもりで、窓の外は白っぽくて、ぬかが日なたの代わりにわたしの足もとで丸くなっていた。
昨夜のことを、書いておく。三連休の中日だったせいか、ふだん来ない顔が何人かいた。そのなかに、新しい腕時計を何度も袖から出す男の人がいた。四十代なかば、たぶん。カウンターの端で、隣の席の同い年くらいの人に、ボーナスの話をしている。聞かれてもいないのに、金額のほうになります、みたいな顔で、桁だけ小さい声で言う。小さい声にするのは、聞こえてほしいからなんだよね、たぶん。
隣の人は、うなずきながら、グラスの氷ばかり見ていた。左手の薬指に、白い輪の跡がうっすら残っている。外してからまだ日が浅いのだと思う。時計の人の自慢と、指輪の跡の沈黙と、同じカウンターに並んでいるのが、なんだかおかしかった。羨ましさって、声に出す人より、氷を回す人のほうに、よく溜まる。
見栄は、値札を背負って歩く。背負っている本人にだけ、値段が読めない。そう思いながら、わたしは笑って、時計をほめた。ほめるのは仕事だから。でも、袖口のほつれた古いワンピースを着て、その人の見栄を安く数えているわたしだって、たぶん似たようなものだったりして。
閉店のあと、散歩をして、冷たい風のなかで煙草を一本だけ吸った。吸い殻の数だけ、人のことを言える立場じゃない。まあ、いいか。
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