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よざくら

預かるということ

· カテゴリ: 仕事・学校

金曜の夜は、勘定の紙がやけに重い。霧雨の日で、客足はまあまあだった。傘立てに、濡れた傘が六本。数えるのは、もう癖になっている。

雇われママになって、一年と四か月ほど。店はわたしのものじゃない。ボトルも、棚も、壁のポスターも、先代ママのものだった。それなのに、閉店後のレジの前に立つと、なんとなく、全部がわたしの肩に乗っている気がする。肩こりの理由は、たぶんそれ。

ボトルキープの札には、客の名前が書いてある。名前だけじゃない。飲み方も、帰る時間も、誰と来て誰と来なかったかも、一緒に預かっている。1000円からお預かりします、とバイトみたいな口が出る夜もあって、自分で笑ってしまう。預かっているのは千円札じゃない、とは思うけれど、そう言い切れるほど立派でもない。

今夜、ツケのある人が、財布を開いて、しばらく閉じた。わたしは何も言わずに氷を足した。次でいいですよ、の一言が言えるのは、他人のお金を握っている人間の、いちばんずるいところなんだよね。たぶん。

先代ママは「ここで聞いた話は、ここで冷ます」と言った。冷ましきれない分は、どこへ置けばいいのか。

帰り道、霧雨が街灯のまわりだけ白かった。靴の底が、少しだけ減っている。

夜客雑記

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コメント

ミツ 2022-08-07
傘の数を数える癖、なんだかいいですね。夜勤明けの朝に読むと、その六本が目に浮かびました。

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