黄色くなるまで
右の腰骨のあたりに、あざがある。指で押すと、青から黄色に変わりかけた輪郭が、ちゃんと痛い。
あの夜のことは、半分しか覚えていない。覚えている半分が、よくないんだよね。嫌いな男だった。笑うとき、まず相手の財布の厚みを見る人。人の話を、いつのまにか自分の話に着替えさせる人。その男の肩の汗が、朝のカーテンの光に薄く光っていて、そこだけ、やけに鮮明。
嫌なのに、体は嫌がっていなかった。いちばん腹が立つのは、そこかな。皮膚はわたしより正直で、わたしより安い。首の後ろの歯の痕を洗面所の鏡で見つけたとき、胃の底がきゅっと縮んで、同時に、ふっと熱くなった。吐き気と同じ場所から来る熱だった。たぶん、あの男の指が覚えているのは、わたしの嫌悪じゃなくて、声の低いところ。
シーツの匂いは、洗っても布には残らなかった。わたしの鼻の奥のほうに、まだある。
あの男の顔を思い出すと、頭を壁に打ちつけて、あの笑い声ごと潰してやりたくなる。そのあとで、もう一度あの夜に戻りたくなる。どっちも本当で、どっちもわたしの手の中にある。いちばん下品なのは、あの男じゃない。思い出すたびに、膝を閉じているわたしだ。
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