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市民ブログ » 終電のあとで

よざくら

指輪の跡

· カテゴリ: 日記・雑記

霧雨の土曜日で、三連休の真ん中だったせいか、店はいつもよりゆっくりと埋まっていった。

奥のボックスに二人連れが座って、男のほうの左手の薬指には、外してからまだ日が浅いらしい白い輪の跡があった。跡のまわりだけ皮膚が少しやわらかそうに見えるのは、たぶん気のせいではないんだよね。女のほうはそれを見ないようにして、水割りの氷ばかり眺めていたけれど、見ないことでぜんぶ見ているような目だった。

嫉妬というのは声を荒げるものだと思っていたのに、ほんとうは、おしぼりをたたみ直す手つきにいちばん先に出る。三回たたんではほどいて、また三回たたむ。男が奥さんの話をしないぶんだけ女の指がよく働いて、グラスの汗がコースターの上で丸く広がっていくのを、わたしはカウンターの内側から、なんとなく眺めていた。

そういえば、わたしにも、帰る家のある指をした人を遠くから数えていた時期があった。あれは嫉妬というより算数に近くて、足したり引いたりしても、いつも答えが合わないのだった。自分の計算の下手さを人のせいにしないだけ、まだ増しかな。どうだろう。

終電の少し前に二人は別々に席を立ち、女は戸口で傘を忘れかけて戻ってきた。濡れた傘の先から水が一本、床に細く落ちていった。

お会計は男が先に済ませて、千円札を握る手が、すこしだけ熱かったような気がする。

夜客雑記

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