母の電話は、だいたい十分で終わらない
金曜の夜、母から電話がきた。用件は「マスク、足りてる?」だった。
足りてはいない。ただ、在宅の日が増えたので、減りも遅い。そう言うと、母は「布のを作ったから送る」と言った。国から配られるという布マスクを待つより早いらしい。たぶん本当に早い。
父は、まだ普通に出勤しているそうだ。「あの人は危機感がない」と母は言う。電話の向こうで、父が何か言い返した気配があった。内容は聞き取れなかったが、声の高さで大体わかる。
妹は大学が始まらなくて、家でずっと課題をやっているらしい。「あんたも少しは見習いなさい」と言われた。何をだ。こっちも毎日パソコンの前に座っているのに。
帰省は、しばらく控えることにした。母は「そうだね」と言ったあと、少しだけ黙った。こういう間は、電話のほうが目立つ。
十分くらいのつもりが、気づけば四十分。切ったあと、部屋が静かだった。ロードバイクのチェーンが、壁際で光っていた。明日は近所を軽く走る。
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