霧雨の帰り道、タクシー代は経費やと思うことにしとる
店を出たのは午前二時前。霧雨が、街灯の下だけ白く光っとった。
今夜の客は三十代の昼職で、マスクの下でも口元が緩んどるのが分かる女やった。ボトルを一本入れて、帰り際に俺のシャツの袖をつまむ。「今日は帰りたくない」て顔や。可愛いもんやで。寂しさには値札がつく。俺はそれを読み上げただけ。「明日仕事やろ。ちゃんと寝え」とだけ言うて、タクシーに押し込んだ。
優しい言葉は一個もかけてへん。ただ、突き放すと追いかけて来よる。次の指名は、来週の水曜までに入る。数字は嘘つかん。
手を振って車が曲がるまで見送って、そのあと一人で歩いた。0.5℃まで落ちた夜の空気が、酒で熱い喉に気持ちええ。コートの襟を立てて、濡れた舗道を二本ぶん歩く。スマホを見たら、今月の売上が俺の名前の横で去年の倍近い。店で二位。ついこの前まで五位前後でうろうろしとったのにな。
駅前でタクシーを拾う。千五百円もせえへん距離や。経費やと思うことにしとる。母には来月の家賃の補助をもう振り込んどるし、妹の誕生日の分も別に取ってある。情は利息みたいなもんや。外に出す相手は、最初から決めとけばええ。
マンションの前で見上げたら、五階だけ真っ暗やった。誰も待っとらん部屋。ええやんか、それが一番金がかからん。結局は金や。
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