年末の土曜に、一人で飲みに行った理由
店は休みやない。休みやないけど、今夜は行かん。指名の電話も三本無視した。
霧雨の中、バー・黒猫橋まで歩いた。ウイスキーを強炭酸で割って、カウンターの端。酒は強いほうやけど、翌朝に残るようになったんは、まあ歳やな。29や。認めたるわ。
隣に座った女が、勝手に喋りはじめた。昼職、三十代半ば、手取りは月四十ちょい。聞いてへんのに数字まで出してくる。ええか、寂しい女は自分から値札を見せてくるんや。声を落として「そら大変やな」と一回言うただけで、グラスを持つ指が止まった。可愛いもんやで。
ほんで気づいた。今、俺は誰にも金を使わせへんまま、この女の財布の中身だけ読んどる。店では新人のユウトに、俺の客が二人持っていかれた。向こうは笑顔で「すんません」言うてくる。ふざけんなや、ボケ。二十二のガキが、俺が三年かけて耕した畑を、顔だけで刈り取りよる。あの客らも客や。去年の書面で俺が泡吹いてたん見てたくせに、傷の乾く前に若いのに乗り換えよる。女の情なんか、利息もつかん安物や。
女が「また来てくれる?」と言うた。俺は名前も教えんと、勘定だけ置いて出た。…あの手応えが、まだ俺にあるんか確かめたかっただけや。確かめて、腹の底が冷えた。ある。あるのに、金にならん。
結局は金や。今夜の飲み代、四千二百円。数字は嘘つかん。減っとるんは売上で、俺の腕やない。そう思わな、やっとれんやんか。
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