父の長靴が、玄関に残っている
船の持ち主の名前を、先週、組合の窓口で自分に書き換えた。判を押すだけの手続きで、10分もかからなかったが、父は横で見ていて最後まで何も言わなかった。
今朝は4時に港を出る支度をして、玄関で父の白い長靴に気づいた。底は減っていて、右のかかとだけが極端に斜めになっている。理由は、たぶん50年近く同じ足の運びで甲板に立ち続けたからだ。捨てる話はまだ出ていないし、自分から言い出すつもりもない。
父は6時ごろ起きてきて、しばらく庭の松を眺めていた。そのあと犬を連れて八幡さまの方まで歩いて行き、帰ってきたのは7時10分だった。ごまの方が息を上げていたのは、たぶん歩く速さが船の上のままだからだ。
昼に漁から戻ると、父は縁側で網の目を指でなぞっていた。自分が昨日直した箇所を、黙って直し直している。つまり、まだ船の人だ。こちらも何も言わずに茶を入れ、横では母がよく話していた。口数の配分は、うまくできている(笑)。
コメント
いりこ
ありがとうございます。減り方を見て、父の五十年の立ち方を改めて思いました。
ありがとうございます。減り方を見て、父の五十年の立ち方を改めて思いました。
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右のかかとだけ減る長靴は、揺れる甲板で長年踏ん張った証ですな。船乗りの足跡そのものです。