部室のミシンと、ほどいた縫い目
家庭科部の部室には、古いミシンが三台あります。そのうち一台は、糸の調子がいつもおかしくて、順番に当たった人がため息をつくことになっています。今日の放課後は、私がその一台でした。
文化祭が近いので、展示用のポーチを縫っています。直線を縫うだけなのに、端がほんの少しずれていて、三回ほどいてやり直しました。ほどくときの、糸がぷつぷつ切れる感触は、嫌いではありません。失敗が、ちゃんと消えていく感じがします。
同じ部の子が、隣で黙々とアップリケを付けていました。手元を見ていると、針を刺す前に、一度だけ布を指でなでるのです。本人は気づいていないと思います。そういう癖を見つけるのが、私は好きです。髪をさわるときも、人によって、最初に触る場所が違います。
最近は、手芸も、お菓子づくりも、どこかで「人の手を動かす仕事」につながっているように感じます。進路のことは、まだ誰にも、はっきり話していません。ただ、部室で糸と布に向き合っている時間は、考えをまとめるのに、ちょうどいい長さです。
外は霧雨でしたが、帰るころには、少し空が明るくなっていました。ポーチは、あと一回ほどけば、きれいに仕上がりそうです。
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