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市民ブログ » 壊し屋の独り言

げんぞう

拳はまだ覚えとる

· カテゴリ: 日記・雑記

朝五時。虎次ば連れて堤防まで歩いた。曇っとって、手がかじかむ。立冬が過ぎたら、急に冬たい。堤防の端で、竿を持った四十くらいの男が、吠えた虎次に缶コーヒーば投げつけた。当たりはせんかった。「汚か犬ば連れてくんな」と抜かした。俺は黙って、そいつの前に立った。何も言わん。男は目ぇ逸らして、竿ばなおして帰っていった。

それでよか。よかったはずやのに、右の拳がまだ熱い。頭の中では、とっくにやっとった。胸ぐら掴んで、コンクリに顔ば擦りつけて、鼻の軟骨がぐしゃっと潰れる音まで聞こえとった。冷たか潮に頭ば押し込んで、泡が上がらんごとなるまで数えとった。泣いて謝る声も聞こえとった。昔の話ばい。九五年、ベランダから男ば逆さに吊るしたとき、そいつの小便が俺の腕ば伝った。生ぬるかった。あの温度を、手はまだ覚えとる。

足ば洗ったのは二〇〇二年の春。親分が死んで、残った幹部が薬に手ぇ出すと言いだした。人に飯を食わせる組が、人の骨の髄まで溶かす商売ばするんか。筋が通らん。だけん抜けた。そこに後悔はなか。

後悔は別のとこにある。組は抜けても、拳は家の中まで付いてきた。酒飲んで怒鳴って、長男が泣くたびに、また怒鳴った。手は出さんかった。出さんなら済むと思っとった。ボケが。済むわけなかろうが。

組からは抜けられた。自分の拳からは、いまだに抜けられん。

昔話

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