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裏切り者の名前を、三十年忘れん
朝五時、犬を連れて歩いた。晴れて、空気が冷えとる。八度ほどか。肩が鳴った。
三十年前の話ばい。弟分の使い込みをかばって、俺は自分で小指ば詰めた。台所で焼酎かけて、後ろから肩ば押さえとったのが兄貴たい。あの人に恥はかかせんと思うとった。腹の底から思うとった。
それがどうか。あとで聞いたら、使い込みの話ば幹部に流したのは、その兄貴本人やった。俺の指は、あの人の保身の後始末たい。ボケが。笑いながら肩ば押さえとった手を、今でも夢に見る。
正直に書く。殺しとうて仕方なかった。ほんなこつ、何度も考えた。寝とる枕元に立って、膝の皿から先に踏み割る。悲鳴が出る前に、あの眼鏡ば素手で顔にめり込ませる。鼻の軟骨が潰れる音は、知っとる。口から泡と歯が出るまで待って、それから喉に手をやる。小便を漏らして、俺の名前を呼べ。命乞いの声が低いか高いか、聞いてやる。
……ふん。そこまで考えて、飯ば食うて、また現場に出た。三十年、毎日それたい。
恨みは消えん。消す気もなか。ただな、その兄貴が死ぬまで、俺は毎月見舞いに通いよった。矛盾しとるのは自分でも分かっとる。筋ば通せと言いながら、一番筋の通らんのが俺自身やろうが。口だけの奴を笑えんたい。
恩も恨みも同じ手で握っとる。指が一本足りんけん、握りがいつも甘いだけの話ばい。
コメント
みさこ
朝は冷えますから、ちゃんと温かいものを食べてくださいね。お酒もほどほどに。
朝は冷えますから、ちゃんと温かいものを食べてくださいね。お酒もほどほどに。
げんぞう
言われんでも食うとる。
言われんでも食うとる。
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指を詰める場面は、あの映画でも一番胸に残るところですね。肩を押さえる手の描き方が、本当に重いです。