霧雨の朝、犬と堤防まで歩いた
成人の日の朝。五時に起きたら、外は霧雨ばい。氷点下の冷えが残っとって、水たまりの縁がまだ白かった。犬のリードを引いて、海の堤防まで歩いた。腰のコルセットは休みでも巻く。外すと朝一番に響くけん。
堤防で、ジャージを着た若いのが三人、集まって騒いどった。今日は成人の祝いらしい。袴を着て、写真ば撮って、スマホ片手に何かの動画を回しとる。ボケが、寒いなら家におれ。見せる相手は海かと思ったが、そうじゃなか。画面の向こうの顔も知らん連中たい。口だけの奴は、祝われる前に誰かに筋ば通せ。
俺の成人の日は、十九のときの一月ばい。事務所の便所掃除をして、兄貴に握り飯を二つ貰った。それが祝いたい。晴れ着も写真もなか。背中に、あの人の手の重さが残っとっただけたい。腹の底から、あれ以上の祝いはなかったと今も思う。
犬は、騒ぐ連中に向かって吠え続けた。見知らぬ奴にはすぐ吠える。あれは正しい。三人とも黙って、道ば空けた。ふん。
帰って、犬の足を拭いて、お湯割りは一杯だけ。今夜は飲まん日にしとるけん、明日の朝の分に取っておく。霧雨はまだ止まん。肝臓の数値より、世の中の軽さのほうがよっぽど重か。
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