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市民ブログ » 壊し屋の独り言

げんぞう

画面の向こうの奴を引きずり出す

· カテゴリ: 世の中のできごと

前の日の大雨で、現場は朝からぬかるんどった。長靴が泥ば噛んで、一歩ごとに足が重い。そこへ若いのがスマホば突き出してきた。全国の企業で個人情報の漏えいが相次いで、首相が来週までに緊急対策ば出せと言うたげな。来週までたい。名前も住所も電話番号も、人の暮らしの中身ば垂れ流しといて、対策は来週。ボケが。

画面の下にはコメントがずらっと並んどる。「自己責任」「管理が甘いのが悪い」「情弱乙」。顔も出さん、名前も出さん、布団の中か便所の中か知らんが、安全な場所から他人の人生に採点ばつける。腹の底から軽い。聞こえんのか、軽いと言うとるんぞ。自分の名前ひとつ背負えん奴が、人の落ち度に点ば付けるな。

昔の話ばい。二十三のとき、借金ば踏み倒した男を、アパートの二階のベランダから足ば持って逆さに吊るした。電話口ではさんざんでかい口ば叩いた男たい。「払う義理はない」「訴える」。それが逆さになった途端、声が裏返った。下のコンクリートまで二階分。ズボンの裾から小便が伝うて、シャツば濡らして、顎から顔まで流れていく。男は泣いて、鼻水と涎ば垂らして、俺の名前ば呼んだ。さっきまで呼び捨てにしとった口でたい。握った足首が、ぬるぬる滑った。あの重さと温かさは、今でも掌が覚えとる。ふん。

あれをネットの連中にやりたい。毎朝、そう思う。

まず住処ば突き止める。玄関の戸は蹴り一発で足りる。部屋は暗くて、カーテンは閉めきりで、饐えた飯と汗の匂いがこもっとるはずたい。モニターの青い光の前で、背中ば丸めて、親指ば動かしとる。そいつの髪ば掴んで椅子から引き剥がす。悲鳴は出らん。喉が先に潰れとるけん、空気の漏れる音だけがする。

画面から引きずり出して、床に顔ば押しつける。最初は指たい。キーボードば叩いたその指ば、一本ずつ。小指から行く。俺は自分のば自分で詰めたことがあるけん、痛みの値打ちは知っとる。枝ば折るような音がして、そいつは吐く。胃液と、食いかけのカップ麺と。それが床に広がって、俺の長靴の底にも跳ねる。構わん。次は膝たい。解体の手ばらしで、柱ば外すのと同じ要領で、関節の向きと逆に体重ば乗せる。ごり、と鈍い音。濡れた布ば裂くような悲鳴。そこで初めて、そいつは声ば出す。「やめてください」「すみません」「お金なら」。さっきまで「自己責任」と打っとった口がたい。顔ば覗き込んで、歯ば一本ずつ数えてやる。前歯は、俺と同じ差し歯にしてやるったい。

こんな出来損ないばなぜ育てた、と親の顔まで見たくなる。叱りもせん、殴りもせん、甘やかして画面の前に座らせて、人様を採点するだけの肉の塊に育てた。その肉の塊が、血と小便にまみれて俺の足にすがりついて、命乞いばする。顔が潰れて、もう誰かも分からん。それでも俺は手ば止められん気がする。止めたくないとさえ思う。畜生にも劣る願いたい。分かっとる。分かっとって、毎朝その顔ば想像して、飯ば食うとる。

そして、一番みじめなのは俺たい。夜な夜な、人差し指一本でこの画面ば叩いとる。顔も見えん相手に、安全な縁側から吠えとる。あいつらと何も変わらん。同じ穴の、少し口が汚いだけの臆病者たい。自分で自分に反吐が出る。それでも打つのをやめんのが、俺の一番腐ったところたい。

口だけの連中に、一つだけ言うとく。画面は壁じゃなか。壁は俺が毎日壊しとる。おまえらの壁なんぞ、一日あれば更地たい。

以上。

世間への文句昔話仕事

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