母の爪を切った
木曜は仕事で行けなかったので、水曜の夕方に母のところへ寄った話を書く。
ホームの部屋に入ると、母は椅子に座って窓の外を見ていた。わたしの顔を見て「来たん」と言って、名前もちゃんと呼んでくれた。ちょっとだけ安心した。
手の爪が伸びていたので、職員さんに爪切りを借りた。母の手は小さくて、皮がうすくて、指の関節が丸い。一本ずつ切るあいだ、母は黙ってそれを見ていた。「子どもの頃は、わたしが切ってもらいよったな」と言うと、「そうやったかな」と母。覚えていないようだった。まあ、そんなもんやと思う。
帰りぎわには、歩行器を押してドアまで見送ってくれた。外はまだ蒸していて、霧雨が降っていたので、車に乗ってからワイパーを一回だけ動かした。
次の日曜は弟が面会に行く。爪を切ったことは、部屋のノートに書いておいた。
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お母さま、黙って見ていたのが素敵です。爪を切る時間、きっと穏やかだったんでしょうね。