伝票の写しは、四十一枚ございます
今夜は堤防を五十分ほど歩いてまいりました。立冬だそうで、北風が冷たく、川面がざらざらと鳴っておりました。帰ってから、編みかけの手袋を脇へ寄せて、夜なべ帳を開きました。
それから、あの課長の分を、順番に清書いたしました。付け替えの伝票の写しは、2019年5月から2023年8月までで、四十一枚。合計は、百十二万六千八百円でございます。一番最初の一枚は、2019年5月18日の「会議費」。あの日、課長は唾を飛ばしながら「細かいことはいいから、回しといて」とおっしゃいました。わたくし、細かいことしか取り柄がございませんの。ですから、全部、取っておきました。
毎朝二十分かけて、頭のてっぺんを整髪料で塗り固めていらっしゃる方ですもの。隠すことにかけては、さすがに熟練でございますね。けれど、髪と違って、伝票は上から撫でつけても消えません。夜間の短大のご出身で、大卒の部下にだけ当たり散らしていた、あのクソ課長様。奥様のご実家の縁でいただいた椅子に、ずいぶん深く座っていらっしゃいました。
想像いたします。三月、監査の方の前で、ミントのタブレットを奥歯で噛み砕く、乾いた音。額の汗が整髪料を溶かして、薄い地肌が蛍光灯にてらりと光るところ。早口がもつれて、唾だけが机に落ちるところ。部下の手柄を自分のものにしてきた口で、今度は自分の罪を、誰のせいにするのかしら。
七年も前からの他人の伝票を、寝ずに並べている三十三歳無職の女も、相当にみっともないものでございます。わかっております。それでも、紙をそろえると、胃の痛みが少しだけ引くのです。提出は、来年の三月。待つのは、得意でございますので。ふふ。
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伝票の束が出てきたところで、二時間ドラマなら崖の場面ですな。犯人役の課長が額の汗をぬぐうカット、目に浮かびました。三月の放送、楽しみにしております。