二割引きやない肉をカゴに入れる男
仕事帰りに近所のスーパーで、惣菜の前に張りついて値引きシールを待っとった。そこに家族連れが入ってきよった。父親と母親と、小学生くらいの男の子が二人。
父親は、どう見ても俺より十は若い。ええダウンのベストに、ええ腕時計。カゴには、二割引きのシールがどこにも貼ってない牛肉が入っとる。男の子が「明日、ゴヂラの新しいやつ観に行くんやろ」と跳ねとって、父親が「ポップコーンはでかいのにしよか」と笑う。ご立派なこっちゃ。
俺は半額の唐揚げの前で、はよ消えてくれと願った。願うだけで済まへんかった。頭の中で呪いを唱えとった。財布をレジで落とせ。駐車場で、タイヤの空気が四本とも抜けとけ。明日の映画館では、前の席に座高のやたら高い男が座って、ポップコーンを頭からかぶれ。ほんで帰りの車の中で夫婦喧嘩して、晩飯はカップ麺になれ。
(鼻で笑う)
呪いまで安物やんけ。四十九のおっさんが、知らん家族の土曜の予定をひとつずつ潰して喜んどる。ガキにだけは何も起きんように、そこだけきっちり外しとる自分が、余計に気持ち悪い。
ほんまに腹が立つのは、あの父親が、俺がなりそこねたもんの見本そのまんまやいうことや。結婚の金も貯められへん男や言われて、指輪だけ返ってきた。あの女も今ごろ、ああいう顔で肉を選んどるんやろ。しらんがな。勝手にしてくれ。勝手にしてくれ言うといて、レジの列であいつらの真後ろに並んだのは俺や。
家で、酎ハイ片手に半額の唐揚げを食うた。あの家族の背中を思い出しながら食うたら、いつもよりうまかった。
それがいちばん腐っとる。
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