母の電話は、いつも用件から始まる
夕方、母から電話がありました。「灯油がもうすぐ切れそうなんだけど」と、挨拶もなく本題です。保育園の調理員を長く勤めていたせいか、母の話し方は昔から、はきはきと簡潔です。
父が亡くなって、まもなく一年になります。実家でのひとり暮らしは、思っていたより、きちんと回っているようです。ただ、重いものだけは別で、灯油のポリタンクは一缶ずつ持ち上げて運ぶことになります。今日の霧雨のなか、ストーブの火を気にしながら、自分ひとりで運ぼうとしたのでしょう。値段も、いまは一缶で二千円を超えていて、これも母には痛いところです。
仕事の区切りがついたので、車で実家へ向かいました。着いてみると、玄関の靴はきれいに揃い、父の席にも、お茶がひとつ置いてありました。理由は聞きませんでしたが、聞かなくてもわかる気がして、そのまま黙って灯油を入れました。
帰りぎわ、「あんたも風邪をひかないようにね。マスクはちゃんとしなさいよ」と、玄関で見送られました。用件だけの電話のあとに、こういう一言が付いてくるところが、母らしいのです。来月からは、灯油の配達を頼めないか、近所の店に聞いてみるつもりです。
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