湿気を吸ったギターと、右手の小さなバンド
霧雨の朝です。昨日の雨がまだ空気に居座ってて、窓を開けたら部屋ごとぬるい味噌汁に沈んだみたいな湿気。妻は午前中仕事なので、オレとジャムで留守番なわけで。
音楽部屋で、中学のときの古いアコギを出したら、弦がしっとり重い。湿気を吸った木って、声がこもるんだよな。風邪ひきの歌手が無理してステージに立ってる感じ。それでも、梅雨のこもった音が嫌いじゃなかったりする。
いま練習してるのは、60年代の終わりにイギリスのフォークの人が出した、指弾きの曲。親指でベースを刻みながら、残りの指でメロディを拾うやつで、ググったら「比較的やさしい」と書いてあって、思わず声に出して笑った。どこがだよ。でも、親指が勝手に歩き出す瞬間があって、そうなると右手の中に小さなバンドが一組住みついたみたいになる。低音が床をコツコツ歩いて、高音が窓の霧雨と同じ細さで落ちてきて、五十三のおっさんが一瞬だけ二十歳の下宿の畳の上に戻される。あの感じがたまらないんだよな。ただし三小節目で親指が迷子になる。毎回。
ずくがないオレにしては、もう二週間続いてます。気づけば、コーヒーはすっかり冷めてた。で、今朝はじめて最後まで通せた。キタコレと顔を上げたら、ジャムが開けっぱなしのケースの中で丸くなってて、拍手のかわりにあくびが一つ。観客一名、評価はあくび。まだまだだに、という話(違)。
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