壁は、手がおぼえとる
今日はくもり。朝は庭に出た。
離れの作業場に、古い鏝が並べてある。仕事をやめて三年になる。いまは物置たい。それでも、たまに手に取る。柄のところが、手の形にへこんどる。
むかしは、漆喰を練るのも自分でした。海の近くの蔵の壁を、親方と二人で塗ったことがある。すさを混ぜて、水加減をみて、ひと晩ねかせる。それがね、翌朝の練り上がりが指先でわかる。ちょっと触れば、今日は塗れるか塗れんか、手がおぼえとる。機械じゃ、そうはいかん。親方には、仕上げの鏝のひとなでが多いと怒られた。壁は、なでるほど死ぬさい。あの言葉は、いまでも耳に残っとる。
昨日、写真クラブの人に、蔵の壁を撮るなら光は斜めからがよかと言われた。塗り肌の鏝の跡が、影でくっきり出るけんね。左官の目で見とったのに、気づかんかった。まあ、わしが一番最初に気づくべきことたい。
腰と手首は、相変わらず痛い。もう壁は塗れん。そのかわり、塗った壁をカメラで撮って歩く。まあ、よかたい。
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「なでるほど死ぬ」、胸に刺さりました。仕上げで手を止める見極めは、どうやって身につけられたんでしょうか。勉強になります。