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市民ブログ » 勘定書きの裏

ジン

「お前が決めたんやろ」で、五万の線を切った

· カテゴリ: 日記・雑記

難浦の裏通り、黒猫橋のカウンター。
十一月やのに、上着いらんくらいぬるい夜やった。

元客のひとりが、先に来とった。
毎月五日に五万、「貸し」って名前で振り込んでくる女や。
今月は入ってへん。理由は聞かんでも、顔に書いてある。

「ごめん…今月、ちょっと無理かもしれへん」

ええか、この一言を待っとった。
金の話は、相手の口から出させる。終わりの話も、同じや。

グラスの氷が鳴るまで、黙っとく。
女の指が、コースターの端をずっと折っとる。爪の色、半分剥げとった。前は月イチでサロン行っとったのにな。可愛いもんやで。削れるとこから全部削って、最後まで俺の五万だけ残しとったんや。

ほんで、低い声で、ゆっくり落とした。

「ええよ。…お前が決めたんやろ」

責めへん。引き止めへん。
俺は何も切ってへん、切ったんはお前や、って形で持って帰らせる。
泣きそうな顔で「ちゃうねん」て言いかけたから、先に勘定書きを取って、俺が払った。三千八百円。
最後に奢られた記憶は、ほんま一生残るで。あれがいちばん重たい。

帰りの電車で、残高を見た。
数字は嘘つかん。月五万、一年で六十。あの女の爪が剥げたぶん、俺の金庫の時計が光っとる。

ふと、母の手を思い出した。
夜の店から帰ってきて、台所で手ぇ洗っとった、あのガサガサの手。あの手から金抜いて消えたクソ親父と、今夜の俺、何が違うねん。

違わんわ笑。
違うんは、俺が母に家賃送っとるとこだけや。
それで帳尻合うと思とる自分が、いちばん安い。

…ほな次。もう一人、来月の五日がある。

夜の話金客

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