「本命」は一回も言うてへん
昨日の夜、三十代の客がボトルを入れた。三本目や。
俺は一回も「本命」と言うてへん。言うたのは「今日、顔見たらほっとした」だけ。声を落として、ゆっくり、語尾を落とす。それだけで向こうが勝手に埋めよる。可愛いもんやで。
色恋のコツは、約束をせえへんこと。嘘は少なく、同じ嘘を重ねる。「忙しくて返せんかった」を月に二回、同じ温度で言うだけや。増やしたらあかん。増やすと矛盾が出る。
金の話は、こっちから出さん。向こうの口から出させる。「今月ちょっと厳しくて」と言わせたら、俺は黙って手を握る。…指の先が冷たいのに、掌は熱い。そのまま三秒。「無理せんでええよ」と言う。ほんで次の週、あの子は無理をして来る。
数字で見たら簡単や。今月の売上は300万に乗るペース。店の6位前後から、そろそろ上を見とる。情は利息みたいなもんや。預けた側が払う。
タクシーで帰る途中、窓が少し曇っとった。霧雨や。ジムは明日の脚の日。ええ体は女より裏切らへんからな。
結局は金や。
以上。
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