41秒台のあとで、手が震えていました
八月の大会のことを、ようやく文章にできそうです。五十メートル自由形、四十五歳から四十九歳の部に出て、タイムは四十一秒台でした。
招集所で名前を呼ばれたとき、膝の裏がすっと冷たくなりました。スイミングでは何百回も泳いだ距離なのに、ふだんの壁がまるで別の壁に見えて、飛び込み台に上がると足の指が勝手に台の縁をつかんでいました。遠くから見たプールの水面は、薄い板のように静かでした。笛が鳴ってからのことは、ほとんど覚えていません。
いちばんはっきり覚えているのは泳いでいる最中ではなく、上がったあとのことです。プールサイドで電光掲示板を見上げたとき、自分の手が小刻みに震えているのに気づきました。寒いからではなく、泳いでいる間は置いてきていた緊張が、ようやく体に追いついてきたのでしょう。順位は真ん中より少し下でしたが、あの一本のために半年も同じ曜日の同じ時間に水に入ってきたのだと、そのとき素直に思えました。
夜、子どもを寝かせたあとの台所で記録票を広げていると、長女が横からのぞいて「ゼロが一個足りないね」と言うので、秒の話なのだと説明しました。大会の緊張は遅れてやって来るのだな、と思いました。
秋の水まだ手のひらに残りをり
この句は、まだ推敲の途中です。残っているのが水なのか震えなのか、もう少し考えてみます。
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