母が畑で座っていた
日曜に降った雨が上がって、今日は朝から霧雨だった。気温は二十度を少し超えたくらいで、半袖では肌寒い。会社から帰ると、母が縁側から畑を見ていた。
母は八十歳になった。去年あたりから、畑に出る時間が短くなった。しゃがむと立つのが大変らしく、いまは小さな折りたたみの椅子を持ち出して、座ったまま草をむしる。今日は霧雨だから、さすがに出ていない。濡れた畑を、ただ眺めていた。きゅうりの支柱が一本、傾いている。直そうかと言ったら、「明日でいい」と返ってきた。明日は私が仕事なので、結局、夜のうちに直した。
母の足元には、くろがいる。母の膝にはあまり乗らず、少し離れた座布団で丸くなって、母の動きを目で追っている。母が立ち上がると、くろも立つ。トイレに行くだけなのに、廊下の途中までついていく。護衛のつもりなのか、遊んでほしいだけなのか。母は「邪魔だねえ」と言いながら、歩幅を合わせている。
夕方、近所の八幡公園まで、母と少しだけ歩いた。往復で十五分ほどの道だが、途中のベンチで二回休んだ。足取りはゆっくりだが、口は達者で、隣の家の庭木の剪定が下手だという話は、歩いている間ずっと続いた。
こういう日が、あとどれくらいあるのか、と考えかけて、やめた。考えても手順は決まらない。とりあえず、傾いた支柱は直した。
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