貸したのは、ロックのはずだった
朝の車庫は小雨で、点呼が終わって帽子をかぶり直したところへ、二十代の後輩が寄ってきて「先週のCD、ガチでよかったです」と、ケースを両手で返してくれました。
先週「何か一枚貸してください」と言われて渡したのは、70年代のイギリスのバンドの2枚目で、ギターのリフが岩を転がすみたいに重く、そこへベースとドラムが後ろから荷台ごと押してくるような、オレの中では文句なしの神盤なんだよな。二十歳のころ、レコード屋のバックヤードで初めて聴いて、その日の伝票を全部書き損じたくらいの一枚です。
「特に4曲目の、港の歌がしみました」と言われて、そんな曲は入っていないはずだと首をかしげながらケースを開けたら、中身は先月、母に頼まれて焼いた昭和の歌謡曲のCD-Rで、盤面には妻の字で「おかあさん用」と書いてありました。つまり本物のほうは、いまごろ実家のラジカセで鳴っていたりする。
後輩は休憩のたびに4曲目だけ三回聴いて、ググったら歌っている人がまだ現役だと知って驚いたそうで、若者の心をつかんだのはオレのロックじゃなくて港だった、という話(違)。なので、今朝のワイパーはいつもよりのんびり動いていました。
それより気になるのは母のほうで、まだ何も言ってこないのが逆にこわく、七十八の耳にあの轟音がどう届いているのか、仕事帰りに寄って確かめてくるだに。
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それは記憶から消してたやつ。三十五年越しの再犯なんだよな(笑)
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お前、高三の文化祭でもカセットのケース間違えて、演奏前に演歌流したよな(笑) 進歩ゼロ