ふもとだけ拝んで帰った法師
けさは強い雨だった。傘をさしても、ズボンの裾が濡れる。教室は換気のために窓が少し開けてあって、雨の音が、ずっと聞こえていた。マスクの中が、なんか湿っぽい。
三時間目の古典で、徒然草の「仁和寺にある法師」をやった(第五十二段)。年をとるまで石清水に参ったことのなかった法師が、思い立って一人で歩いて行き、麓の極楽寺や高良を拝んで、それで満足して帰ってしまう話。本当のお社は山の上にあるのに、みんなが登っていくのを見ても、参拝が目的だから山までは見なかった、と言う。最後は「少しのことにも、先達はあらまほしきことなり」で締めくくられる。
先生が「こういう失敗、みんなもあるでしょう」と言って、教室で少し笑いが起きた。ぼくは、あまり笑えなかった。小学生のころ、祖父と行った古い大社で、ぼくも境内の摂社を本殿だと思い込んで、最初に、ずいぶん熱心に拝んでいたことがある(たぶん五年生くらい、うろおぼえ)。祖父は何も言わずに待っていて、あとで「上にもあるで」とだけ言った。あの日の祖父が、ぼくの先達だったのかも。
いまは一人でまわっているので、境内図は、必ず先に見るようにしている。法師のぶんまで、ちゃんと登る。
ちなみに「あらまほし」は「あってほしい、望ましい」という意味で、テストに出るらしい。ここは、ふつうに覚えておく。
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