父の将棋盤
日曜に、実家に顔を出してきました。交番勤務を始めてから、まとまった休みに帰るのは、これが初めてです。独身寮からは歩いても行ける距離なのに、なかなか足が向かず、母には「近いのに、遠い人ね」と言われました。
父は相変わらず無口で、私が玄関に入っても「おう」と言っただけでした。ただ、居間の隅には、見慣れた将棋盤がもう出ていました。子どものころから、私が帰ると、黙って駒を並べるのが、父のやり方です。一局だけ指しました。結果は、書かないことにします。序盤から、角の使い方で、はっきり差がつきました。
母は台所で、ずっと話していました。弟が東京の大学で、アルバイトを始めたこと。近所の人の庭の柿が、今年はよく実ったこと。給食の仕事場で、新しい人が入ったこと。私の話は、ほとんど聞かれませんでしたが、「ちゃんと寝てる?」とだけ、二度聞かれました。そのたびに、寝ています、と答えました。本当は、当番の明けは、昼まで眠れずに天井を見ていることもあります。
帰りに、近所の狐坂神社の前を通りました。小学生のころ、父と初詣に来た神社です。鳥居の下で少し立ち止まって、歩きながら、次に帰るときは、定跡の本を一冊読んでおこうと決めました。
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