先輩の、右手のメモ
早番の先輩が、フロントでお客様の話を聞きながら、右手でメモを取っていました。左手は、受話器。目は、お客様のほう。何でもないことのようで、まねしようとすると、わたしにはまだ難しいです。
先輩の字は、小さくて丸い。あとで見返すと、部屋の希望も、お子さんの年も、ちゃんと書いてあります。「覚えるんじゃなくて、残すのよ」と言われました。なんだろう、すとんと落ちた言葉でした。
仕事のあと、駅へ向かう道で、朝日ヶ丘公園のベンチに少し座りました。霧雨がやんだばかりで、雲のすき間に、うすい水色が見えていました。足はむくんでいて、靴の中がきつい。冷え性の指先も、ポケットの中で丸まっています。
わたしも、手帳を一冊、買おうかな。それだけのことですが、明日からの立ち方が、少し変わる気がします。
濡れた道 雲のほつれに 空の青 誰かの字みたいに 小さく光る
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