袋の底の、ゆず茶
昨日までの雪が残る朝でした。午前に急ぎの校正を一つ終えて、昼すぎに母の家へ寄りました。
月に何度か、買い物を届けています。頼まれるのは、牛乳、豆腐、食パン、それに洗剤。今日は、メモにトイレットペーパーも加わっていました。重いものは私が持つ、という取り決めを、母はいまも少し不服そうに受け入れています。膝の手術をしてから杖なしで歩けるようになったのに、雪の日の買い物だけは、頼んでほしいのです。
玄関で袋を渡すと、母はまず中身を数えます。頼んだものと、頼んでいないものを、見分けるように。頼んでいないのは、袋の底に入れたゆず茶の小さな箱でした。「また余計なものを」と言いながら、箱は台所の棚の、見えやすい場所に置かれました。レシートは、いつものように受け取ってもらえません。
帰りぎわ、母は「雪かきは、していないから」と言いました。玄関前には、誰かがもう道をつけてありました。近所の方でしょう。私の知らないところで、母の暮らしを支えてくれる人がいる。それはありがたいことですが、同時に、私が毎月通う理由が一つずつ薄まっていくようでもあります。
車に戻るとき、軒先の氷柱が、ぽたりと落ちました。次に来る日を、頼まれなくても、先に決めておこうと思いました。
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