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あの男の靴底に、画鋲を三百個
月曜の朝から強い雨で、安全靴の中まで湿った。そこへ、あの上司や。
俺のピッキングの進み具合を、ハンディの画面で確認して、わざわざ後ろに立つ。何も言わん。ただ立つ。三分ほど立って、「まあ、ええけど」とだけ言うて去る。何がええのか、しらんがな。この「まあ」の二文字に、俺は毎日、時給の十円分ほど削られとる。
昼休みに、頭の中で処刑した。今日の方法はこうや。あの男が毎朝ふんぞり返っとる事務所の椅子に、目に見えん細さの画鋲を三百個。座った瞬間、ご自慢の「総合的に判断」が悲鳴に変わる。ほんで、駆けつけた部下に「まあ、ええけど」と言わせたる。昨日は、台車のブレーキをこっそり外して、坂になっとるトラックバースの端まで見送った。ちゃんと止まらず、あの男の新品の革靴の上を通過した。やることが細かいのは、向こうの専売特許ちゃうやろ。(鼻で笑う)
実際の俺は、頭を下げて、「すんません、気をつけます」と言うた。ええご身分や、とは自分に向けた言葉やった。殺したいほど憎い相手の前で、背筋がちゃんと曲がる。この猫背だけは、親からもろた立派な財産やで。
帰って、値引きの惣菜で酎ハイを開けた。部屋が静かで、本棚の上の骨壺に、今日はまだ何も言うてない。
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