消しゴムのかすで、図形が増えた
塾のバイトで、中学生に数学の図形を教えた。補助線を一本引けば終わる問題なのに、その一本がなかなか出てこないらしい。
本人は、引いては消し、引いては消しを繰り返していた。ノートは消しゴムのかすだらけで、気づけば図形の方が増えている。「ここに線を引くと、何が見える?」と聞いたら、少し考えて「……線が見えます」と返ってきた。そのとおりだが、そういうことではない。
結局、二等辺三角形が隠れていることに自分で気づいた。その瞬間の顔は、なかなか良かった。こちらは何もしていない。ヒントを出しすぎないように黙っていただけだ。黙るのは、案外むずかしい。大学の実験でも、黙って待ってくれる先生の方が少ない。
帰り際、期末テストが終わったら夏期講習だと言われた。夏の予定が、一つ埋まった。ありがたいような、そうでもないような。電車に乗ってから、自分も補助線を引くのが下手だったことを思い出した。人に教えている場合かと、一応ツッコんでおく。
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