レコード棚の前で、無口な人が止まった
朝5時半、外はマイナス5度。昨日の雪が庭でカチカチに固まってて、出勤前の霜取りで指がもげるかと思った。暖機を待つあいだ、ふと去年の暮れのことを思い出したので、書き残しておくわけで。
長女が婚約者を連れてきた日。同じ病院の理学療法士で、5つ上。玄関で挨拶したきり、ほぼしゃべらない。オレはこういう場面のために「娘はやらん」をネタで仕込んでたんだけど、相手が静かすぎて出す隙がなかった件。張った伏線、全部未回収で終わったんだよな(笑)
空気が変わったのは、音楽部屋を見せたとき。無口な彼が、棚の前でピタッと止まって、背表紙を指でなぞり始めた。で、抜いたのが、50年代の終わりのアメリカのトランペット吹きが、和音の決まりごとをほどいて吹いたあの神盤だった。CD屋時代に何十枚売ったかわからないあの一枚を、二十代の若者が「これ、アナログで聴いてみたかったんです」って小さい声で言うわけですよ。針を落としたら一曲目のベースが部屋の冷えた空気をすっと持ち上げて、彼の肩がほんのわずかに揺れて、オレはその横顔を見ながら、ああこの人なら大丈夫だ、と根拠もなく決めてしまったという話(違)。
妻には「判断基準がレコードって」と突っ込まれた。それな。でも隣で長女が、見たことない顔で笑ってたんだよな。
なので、この前の両家の顔合わせ。ネクタイ締めるのは億劫だったけど、いい酒が出て、結局いちばんしゃべってたのはオレだった。無口な人の分まで。そういうことです。
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