電話が鳴らん日
朝から雨だに。作業場の屋根を打つ音が、よく響く。昨日もおとといも降ったで、材木が湿って、まあ、削れる日じゃない。
障子の注文が、このごろ減った。昔はな、秋になると張り替えの電話が、ひっきりなしに鳴ったもんだ。年の瀬に向けて、一日に三軒回る日もあった。今月は、まだ二本。工務店からの仕事も、洋室とサッシばかりで、木の戸の出番が少ない。ふふ、時代ずら。そう言ってしまえば、それまでだが。
手が空くと、道具の手入れをする。かんなの台を調え、のみの裏を押さえて、砥石に当てる。順番は決まっとる。まず荒砥、次に中砥、仕上げはあとで、水を替えてな。使わんでも、刃は曇る。手を動かしてみりゃ分かる、研いどるうちは、仕事をしとる気になれるもんだ。
昼前に、クロが作業場にきて、削り台の端に座った。ここだけは譲らんらしい。膝に乗せようとしても、嫌がる。妻が茶を持ってきて、「今日は電話、鳴らんねえ」と言った。そうだな、とだけ答えた。母が生きとったら、こういう日にも、たぶん「ちゃんと食えとるか」と言うんだろう。
ぼちぼち、やるしかない。雨は夕方まで続くようだに。
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