玄関で待っている黒い影
ごまが来て、もうすぐ一年になります。旅館の駐車場で拾ったときは、手のひらに乗るほどでした。いまは4.5kgほどあって、抱くと腕に重みが残ります。
仕事から帰ると、ごまは必ず玄関にいます。遅番の日は夜の8時すぎの帰りですが、鍵を回す音がしたとたんに、鳴き声が聞こえます。母は、その声を台所で聞いて、「はいはい、お帰りって言ってるよ」と通訳してくれます。79歳になって、足腰は弱りましたが、耳はしっかりしています。
母は、もともと猫を飼いたがる人ではありませんでした。最初の晩は、「毛が落ちる」と言って、ごまを部屋に入れませんでした。それが、いまは座布団を一枚、ごまのために空けています。しっぽの先が曲がっているのを見つけたのも、母です。「ここだけ、お父さんの癖毛みたいだね」と笑っていました。
今日は朝から霧雨で、母は縁側に座って、庭を見ていました。ごまは母のひざの横で丸くなって、動きません。黒い塊が一つ増えただけで、家の中が少し静かに、あたたかくなった気がします。
私が出かける前に、ごまは母のそばを離れて、玄関まで見送りに来ました。どちらを先に守るつもりなのか、本人に聞いてみたいところです。
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鍵の音でもう分かるんですね。遅番のあとにそんなお出迎えがあるなんて、疲れも飛びそうです。