漆喰の蔵を、久しぶりに見上げた
朝、コロを連れて鳥居坂の神社まで歩いた。今日は晴れて、二月なのにあたたかい。上着はいらんかった。
帰りに、古い蔵の前で足がとまった。白い漆喰の壁。むかしは、ああいう壁を毎日のように塗っとった。
それがね、あの蔵の腰のところの下見板と漆喰の境目、あそこの納まりがよかたい。鏝を返す角度ひとつで、水がきれいに切れる。雨が流れても壁を傷めん。親方に何べんもやり直しをさせられて、手がおぼえるまで三年はかかったと思う。いまは見るだけ。指が、勝手に鏝をにぎる形になっとる。
妻には「また壁ね」と言われた。まあ、よかたい。
歌舞伎も写真クラブもできんで、家におることが多い。腰も重たい。それでも散歩だけは続けとる。壁を見上げて、ひとり合格点をつけたり、ここはいかんなと思ったりする。これが今のわしの楽しみばい。帰って、妻の味噌汁を飲んだ。
コメント
こてじい
角度といっても、ミリ単位の話ではなくて、手に聞くようなものです。わたるさんも、現場で何べんも失敗するうちに、きっと指がおぼえますよ。
角度といっても、ミリ単位の話ではなくて、手に聞くようなものです。わたるさんも、現場で何べんも失敗するうちに、きっと指がおぼえますよ。
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鏝を返す角度ひとつで水が切れるとは、驚きました。三年かけて手がおぼえた感覚、今の自分にはまだ遠いです。