雨の面会、車椅子の窓
午前に右手首の通院をすませて、午後から母の面会に行った。雨で、駐車場から玄関までの七十歩ほどを傘をさして歩いたら、足もとがしゃっこくなった。
母は食堂の窓のそばで、車椅子に座って外を見ていた。おれの顔を見ると「雨だな」と言って、それきり黙ってしまった。八十三になる母の声は小さいが、ちゃんと出ている。
手首のサポーターを見つけて「まだ痛いのか」と聞くので、前より楽になった、と答えた。本当は三割ほど楽になっただけなんだども、母は何も言わずにおれの右手を両手で包んでくれた。縫い物をしていた頃の指は、いまも節が太くて、手があたたかかった。
三十分ほどいて、持っていった刺し子のふきんを一枚渡した。母は針目を指で一つずつ数えながら、「ここ、少し寄ってる」と言う。んだな、と思った。直しようがないので、そのまま使ってもらうことにした。
帰りも雨だった。車に戻ってもしばらくエンジンをかけずに座っていたら、ワイパーの音がないぶん、やけに静かだった。また来週、行くか。
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