父の杖が、玄関で待っていた
日曜、雪。父は朝から居間の窓際に座って、庭をずっと見ていた。
お昼前、「稲荷さんまで行ってくる」と言い出した。近所の稲荷さんまで、ゆっくり歩いて十分ほど。右手が不自由になってから、雪の日は出ないことにしていたはずなんだけどね。母が「滑るけん」と止めても、玄関に杖を立てかけて、もう靴をはいていた。
わたしが付いていくことにした。父は何も言わなかったけど、歩幅は小さく、左手で杖をしっかり握っていた。手すりをつけた玄関の段差も、前よりずっと慣れた足取りで降りていた。もう四年だもんね、と思った。鳥居の前で手を合わせて、五分ほどで帰ってきた。何をお願いしたのかは聞いていない。
帰ってから、父は濡れた杖の先を自分で拭いていた。タオルを渡したら、「ああ」とだけ。無口なのは昔からだわ。
夜、ちびが父の膝に乗っていた。父は猫の背をなでながらテレビを見ていた。とりあえず、今日は転ばなくてよかった。
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