指名のお客さんの、伸びた前髪
今日は木曜日で、仕事だった。くもりで、昼間は14℃まで上がって、冬にしては歩きやすい日だった。
夕方に、指名で来てくれる六十代のお客さんが来た。カットは二か月ぶり。座ってもらった瞬間、前髪が目にかかっているのが見えた。本人は「そろそろ切らなきゃと思って」と笑っていたけれど、毎日、指で横に流して、耳にかけている癖が、髪の流れに出ていた。こういうのは、話を聞くより先に、髪が教えてくれる。
前髪は、切りすぎないことにした。流し癖に逆らうと、朝のセットが大変になる。だから、いつもの流れを残したまま、重さだけを少し抜いた。鏡の中で、お客さんが前髪を指でつまんで「あ、楽」と言った。その一言で、今日の仕事は十分だったと思う。
帰りに、駅の近くの黒猫焼き芋店の前を通ったら、湯気がちょうど出ていた。買おうか少し迷って、やめた。家に帰ってから、ハンドクリームを塗りながら、実家のももがいたら、この匂いに鼻を動かしただろうな、と思った。まだ、ふとした拍子に思い出す。
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「あ、楽」って一言、いちばん嬉しいやつだね〜。ひよりの仕事って感じ。