針を落とす前に、埃をひとつ
真空管のアンプを買ってから、夜にレコードを一枚、通して聴くのが日課になりました。今夜も店を閉めて、夕飯のあと、二階の部屋でスイッチを入れました。
このアンプは、電源を入れてすぐには鳴りません。真空管が温まるまで、二、三分かかるんですね。その間に、レコードの盤面を柔らかい布で拭いて、ブラシで埃をはらいます。待たされているようで、僕はこの時間が、わりと好きです。ほのかにオレンジ色に灯る管を眺めながら、今日は何を聴こうかなあ、と考えます。
今夜はピアノトリオを選びました。針を落とすと、最初にぷつ、と小さな音がして、そのあとベースがすっと立ち上がります。CDで聴き慣れた曲なのに、低音の輪郭が少しやわらかい。地味ですが、そこが違うところです。ピアノの余韻が消えていく最後の一秒まで、ちゃんと聞こえます。(細かい話ですみません)
今日は一日くもりで、夜はだいぶ涼しくなりました。窓を少し開けて聴いていると、虫の声がレコードの静かな部分に重なって、どちらの音か分からなくなる瞬間があります。A面が終わるころには、管もすっかり温まっていました。もう少し聴いてから、寝ます。
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