霧雨の朝、鯵を三十尾
朝は霧雨。傘をさすほどではないんですが、髪が帽子の中でしっとりする。昼営業の前に、包丁を研いだ。
いや、これは語らせてほしいんですが、祖父の形見の砥石と小さな出刃で、鯵を三十尾おろす朝というのが、わたしは一週間でいちばん好きなんですよ。砥石は前の晩から洗面器に沈めておいて、水をたっぷり吸わせてあります。そうすると研ぐときの音まで違ってくるし、店の砥石でも切れることは切れるんですが、こっちのほうが刃が立つ気がしていて……(小声)気がする、だけです。ただ、骨に当たったときの手応えが、全然いいんですよ、これが。
昼は煮魚の定食。常連のおじいさんが「今日は味が濃いね」と言った。わたしは黙って頷く。濃くしたのは店主。二番手は、頷くのが仕事。
ちなみに、祖母は杖をついて、夕方の台所で里芋の皮を剥いていました。危ないから座って、と言うと「座っとるが」。たしかに座っている。……という話でした。座ったまま働く人に、勝てる気がしません。
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