夫の作業着の袖口
日曜の朝、夫が玄関先で作業着の袖口をつまんで、ほつれを見ていました。もう何年も着ているものです。会社の工場では、旋盤の前に立つ日が続くようです。
霧雨で冷えた朝でした。それでも夫は、日曜も用事があると言って、早くから庭の鉢を片づけていました。
最近、夫は階段をのぼるとき、手すりに手をのばすようになりました。本人は何も言いません。ただ、夕飯のあとに肩をまわしたり、腰に手をあてて立ちあがったりする回数が、去年より増えたような気がします。口数の少ない人なので、こちらから聞くのも、そっと少し間をおいてからにしています。
先月の健診の結果が、先週届きました。血圧と、数字がひとつ、注意の欄に入っています。封筒を開けた夫は、黙ってわたしに紙を渡し、それから「歩くか」とだけ言いました。
今日は昼すぎに、近所の桜ヶ丘公園のまわりを、ふたりでゆっくり一周しました。梅はまだ固いつぼみです。夫は猫背のまま、わたしの半歩前を歩いていました。
その背中…
いつのまにか、少し小さく見えて。
係長になって、十五年ほどになります。若い人に教える立場で、休みにくいのでしょう。確信犯のように、無理をする人ですね。
袖口は、今夜のうちにわたしが縫っておくつもりです。直したら、もうしばらく着てもらいましょうか。
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「歩くか」のひとことが、いいですね。うちも健診のあとは静かになります。