消しゴムを貸したら、返ってこなかった
土曜の夕方、塾のバイト。中学生に数学を教えている。
授業の途中で、生徒が「消しゴム、忘れました」と言った。予備を貸したら、そのまま持って帰られた。授業の終わりに言えばよかったのだが、帰りぎわの生徒の背中が、やけに軽快だった。百円もしない消しゴムで追いかけるのも、大人げない。
二次方程式の解の公式を、今日はやけに丁寧に説明した。途中で、自分でも符号を一つ間違えた。生徒に「先生、そこマイナスじゃないですか」と言われた。正しい。教える側が間違えて、教わる側が直す。この仕事の、いちばん正しい姿かもしれない。いや、よくはない。
帰りは、駅からの近道で、小峰社の前を通った。二月の終わりでも、夜はまだ冷える。受験の絵馬が、風でかたかた鳴っていた。うちの塾の生徒の分も、混ざっているのかもしれない。消しゴムは、あしたの授業の前に、また用意しておく。
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