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さんぽ

幕見席の椅子を思い出す

2020-06-06 · カテゴリ: 日常

今年に入ってから、劇場へ行っていません。三月の公演が中止になり、四月、五月と続いて、気がつけば、最後に観たのは二月でした。毎年、年に六回から八回は通っていたので、これほど間があくのは、観はじめてから初めてです。

水曜日の朝に、高速バスの時刻表を見て、行き先を決める。昼は近所の定食屋で済ませて、幕見席の列に並ぶ。あの一連の流れが、体に染みついていたのだと思います。今日も、霧雨の窓を眺めながら、ふと「今ごろ、あの階段を上っているところだ」と考えてしまいました。もちろん、上ってはいないのですが。

先日、本棚から古い筋書を出して、『勧進帳』の頁を読み返しました。弁慶が花道を引っ込んでいく場面は、文字で追うと、あっけないほど短い。ところが、実際の舞台では、あの六方の足音と、客席の息をのむ気配で、ずいぶん長く感じられるのです。文字からは、音と空気が抜け落ちている。当たり前のことなのに、いまさら実感しました。

一人暮らしを始めて、部屋は静かになりましたが、静かさの種類が、劇場のそれとは全然違います。七月からは旅行を応援する動きも始まるそうで、劇場の再開も、少しずつ近づいているのでしょうか。再開したら、まず、あの狭い幕見席の、硬い椅子に座りたいです。座布団を一枚、持っていこうかと、今から考えています。

歌舞伎雑記

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