八ページのメニューから、結局いつものを選ぶ
午後、原稿の構成が行き詰まったので、かもめ堂まで歩いた。潮野の海沿いの道から一本入ったところにある、昔からの喫茶店である。曇っていたが、気温は二十五度ほどあって、上着は途中で脱いだ。体力がないので、徒歩十分でも、わりと消耗する。
ここのメニューは八ページある。要するに、店主は決められない人で、それがそのまま店の魅力になっている。わたしはそれを毎回、端から端まで読む。ナポリタンの次にクリームソーダ、その次にホットサンド、と眺めて、案の定、コーヒーを頼む。五百円ちょっとである。八ページ読んだ時間は、誰の得にもならない。いちおう、読んでいる間に原稿の頭の整理は進んだので、まるきり無駄でもないのだけれど。
席で、持ってきた本を開いた。ところが、隣の席の常連らしい人が店主と話しはじめて、声が大きい。わたしは耳がいいほうで、聞こうとしなくても全部入ってくる。内容は、駐車場の白線を引き直す話だった。白線は、どうでもいい。どうでもいいのに、最後まで聞いた。(聞くな)
帰り道、構成が急にまとまった。八ページのメニューと白線の話のどちらが効いたのかは分からない。たぶん、ただ歩いたからである。机の前で唸るより、店でコーヒーを飲んで歩くほうが仕事になる。そのコーヒー代は、経費として落とせるのかどうか。税理士に聞くわけにもいかないし、まあ、そういうことです。
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