Fコードが、二日ぶりに鳴った
朝、仕込みに入る前に三十分だけギター。弾いたのはFコード。人差し指で六本の弦を全部押さえる、あのバレーコードです。
いや、これは語らせてほしいんですが、Fという和音、そもそも「正しく押さえているのに鳴らない」という不思議な壁なんですよ、これが。力の問題だと思われがち。でも実際は人差し指の置き場所の問題なんです。指の腹の真ん中ではなく、少し横の、骨っぽい側面で押さえる。(小声)左の人差し指には古い切り傷の跡があって、そこだけ皮が妙に硬い。この位置と、実は相性がいい。傷が役に立つとは思わなかった……。
二日あけたら、指が完全に忘れていた。一弦と二弦がびびる。親指をほんの数ミリ下げて、ネックを少し手前に引くようにしたら、ぽん、と鳴った。全然いい音。去年買った単板のギターは、鳴ったときの返りが違うんですよ。合板の兄のギターだと、こうは響かなかった。ちなみに余韻が三秒くらい残るのですが、その三秒のあいだ、台所の湯気の音も、まな板の上の包丁の音も、頭の中から消える。ここは語らせてください。
一月に入ってから、毎朝のFを五回ずつ数えています。今朝は五回のうち四回が鳴った。残りの一回は、犬のごまが足元にあくびをしに来たせいにしておく。……という話を、誰にも聞かれずにしています。
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